(22)提案と印象と記憶(2026.8.31)
「あれ、あの商品、どこで買ったっけ?楽天だったかな、アマゾンだったかな」
また楽天で買ったことを思い出し、購入履歴からもう一度注文しようとして、店の名前ってこんなだったっけ?と思うこともある。
楽天で買った、アマゾンで買ったところまでは思い出せても、どの店で買ったかは覚えていない。こんな人は多いのではないだろうか。私も店名で買うわけではないから、まったく覚えていないし、覚えられるはずもない。
一方で、若い頃に長野県へ行った際、そば屋に立ち寄った時のこと。ざるそばを注文すると、「旬の山菜が入っているのですが、天ぷらはいかがでしょうか?」と聞かれた。その時はその気がなかったので「いいえ、結構です」と断ったが、後になって(しまった、天ぷらも頼めばよかった)と後悔した。
そば屋にそれほど通っているわけではないのに、なぜかそのことを今でもよく覚えている。
今年の1月から、Jack会員の社員向けにオンラインで営業研修をスタートした。月1回、2時間という短い研修だが、50名以上が受講している。おかげさまで好評だが、その中で私が大切にしているのが、提案である。ここでいう提案とは、お客様の依頼に応えるだけでなく、お客様自身がまだ言葉にできていない課題や選択肢を示すことだ。
リフォーム営業の特徴はリピート性だと考えている。例えば、レンジフードの交換を依頼したお客様が、次はトイレ工事、その次はエコキュートの交換と、築年数と耐用年数に応じて依頼してくださることが多い。必要なのは信頼の構築だが、もっと重要なのは印象に残ることだ。
私も含めて、お客様は自分のニーズに応えただけの人をあまり覚えていない。実際に私が営業をしていた頃、数年前に施工したお客様に「どの業者で施工されましたか?」と尋ねて、「えー、どこだったっけ?」と言われることが多かった。
こうしたケースは、「〇〇をしてほしい」と相見積を取り、何らかの判断で施工業者を決めたものだ。そこに業者からの提案はなく、依頼されたものをただ施工しただけである。外壁塗装や給湯器に多かった。
すなわち、リフォーム営業で印象に残りたければ、提案をすることがマストである。言われたことをこなすだけでは印象に残らない。逆に、失注したとしても、次の仕事の依頼が来るかどうかは提案次第ということになる。
だから断られたからといって、不遜な対応をしてはいけない。受注した業者が大した提案をしていなければ、お客様の印象には残らず、やがて忘れられる。提案がなければ、受注しても失注しても記憶されない。提案があれば、失注しても次の依頼につながる。
印象は、良い方にも悪い方にも残る。リピート性のある営業にとって、示唆に富む話がある。昔、何かの本で知った内容だったと思う。
米国での実話である。いつもスーパーマーケットを利用していた顧客が、購入した練り歯磨きのチューブに破損があったため返品しようとした。ところが窓口の担当者が快く対応しなかったため、その顧客は二度とその店を利用しなくなった、という話だ。私たちにもよくある話で、身に覚えが1つや2つはあるだろう。
そこで、生涯価値を計算してみる。当時の米国では、週に1度まとめ買いをする家庭が多く、1回の平均が1万円だったとする。年に52回、20年間利用すれば、実に1,040万円になる。それに対して、歯磨きのチューブはたった200円だった。たった1度の対応が、顧客を最悪の気分にさせたのである。
時代が変わっても、顧客の気持ちが移り気で気まぐれなことは、今も昔も変わらない。
私の父も、30年前に嫌な思いをした靴屋のことを昨日のことのように思い出し、終生、近寄ろうとしなかった。お客様に嫌な思いをさせれば、その記憶は何十年も残る。
では、良い印象を残すにはどうすればよいか。
顕在化されたニーズから、本当にお客様がお困りのことは何か?お客様がまだ気づいていない潜在ニーズは何か?
断られてもかまわない。そば屋の天ぷらのように、断られた提案ほど、あとから思い出されるものである。
営業とは、テクニックや精神論で語られがちだが、基本はシンプルだと思う。お客様に寄り添い、まだ言葉になっていない課題を見つけ、より良い提案をする。それが、お客様の記憶に残る営業である。
最高経営責任者 蜘手 健介
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