(8)過去の物差しと「今」と「未来」(2026.5.25)
住宅業界に身を置いて二十余年、私たちは幾度となく「コストの波」に揉まれてきた。今、ナフサ価格の高騰に端を発する建材や物流コストの上昇を受け、多くの有識者や工務店経営者は「需要の冷え込み」を予測している。原価が上がれば販売価格も上がる。だから消費者は買い控える。一見、教科書通りの正論に聞こえるが、私の実感は少し違う。
「価格が上がれば需要が落ちる」という言説は、多くの場合、提供者側の論理に過ぎないのではないか。
確かに、投資家であれば相場を見て「今は高いから買い時ではない」と判断するだろう。しかし、住宅リフォームや新築を希望する顧客の動機は、もっと切実でエモーショナルなものだ。「親を引き取ることになった」「子供が成長した」「披露宴までに家を整えたい」。こうした人生の節目や不便の解消には、明確な「期限」がある。
私自身の経験を振り返っても、自宅の庭や外壁のリフォームを「今年こそは」と思いながら先延ばしにし、気づけば五年が経過していた。ようやく着手した今、五年前の価格と現在を比較して「高いからやめよう」とは微塵も思わなかった。必要に迫られているのは「今」であり、その時の適正価格を受け入れるのが生活者の自然な道理だからだ。「高いから売れない」と怯えているのは、実は顧客ではなく、過去の相場に縛られた売り手の思考なのである。
この「過去の物差し」の危うさは、投資の世界を見ればより鮮明になる。私が学生の頃、金(ゴールド)はグラム千三百円程度だった。それが四千円になった時、世間は「もう天井だ」と騒いだ。しかし現在、金価格は二万六千円を超える水準で推移している。千三百円時代を知る者からすれば「異常な高値」に見えるが、有事の際の保険として金を見る人々にとっては、今の価格こそが世界のリスクを反映した「適正価格」なのだ。
仮想通貨も同様だ。数年前まで仮想通貨といえばビットコイン一択だったが、現在は銘柄が爆発的に増え、資金が分散されている。以前のような「ダイナミックな価格変動」という魅力から、市場全体が膨張し、多層化する段階へと景色が変わった。大切なのは、過去を切り捨てて「今と未来」を見ることである。過去の数字は解説者の道具にはなっても、経営者の決断の助けにはならない。
閑話休題。今、国際情勢は混迷を極めている。中東情勢の緊迫化に伴い、ホルムズ海峡の封鎖や「通行料」の要求といった、かつての常識では測れない事態が起きている。UAEのOPEC脱退に見られるように、長年続いてきた石油の価格コントロール体制は崩壊の危機に瀕している。
ナフサ由来の製品は、安価で加工しやすく、劣化しにくいという特性から、建材や食品トレイ、ペットボトルなどあらゆる場所に使われてきた。しかし、日本は特定の調達ルートに依存しすぎていた。そのリスクが今、牙を剥いている。
遠い世界で起きている出来事と、身近で起きている劇的な変化。私たちはこの苦境をどう捉えるべきか。私は、古き良き時代に思いを馳せるのではなく、これを「新技術への強制的な移行期間」と捉えてみたい。
そもそも日本は資源がない国であること、そして「お金があっても売ってもらえない世界」が存在することを理解しなければならない。使い捨てプラスチックに代わる代替商品の開発と徹底利用、原子力発電を含むエネルギー社会の再構築――。もし原油依存度を半分に下げることができれば、私たちは高いコストを払ってでも、新しい技術という「未来の資産」を手にすることができるはずだ。
この数ヶ月の苦しみは、多くの産業にとって耐え難いものになるだろう。企業が時代の潮流に翻弄されるのは世の常だが、一時的な混乱によって基幹産業の供給者が淘汰・廃業に追い込まれる事態は避けなければならない。
弊社も同じく地獄の苦しみを味わうかもしれない。しかし、この混迷の先には、溜め込まれた需要が一気に活発化する市場が待っている。どのような状況になっても諦めることなく、しっかりと今と未来を見据えていたい。
最高経営責任者 蜘手 健介
ロビンのリフォーム・リノベーション一覧
ロビンは、換気扇レンジフードの交換リフォームから、設計士がご提案するフルリノベーション、注文住宅まで幅広く対応しております。
それぞれのサービスの紹介、施工事例、お客様の声などをご覧ください。






































