（34）政治と人　国家の品格と民度（2025.12.1）

　喫茶店で仕事をしていると、すぐ近くの席から男性ふたりの会話が聞こえてきた。片方は日本人、もう片方は流暢な日本語を話す白人の青年。どうやら面接の場らしい。日本人の男性は映像関係の仕事をしているようで、「この業界は不規則で慣れるのが大変。最初はアルバイトとして不定期で来てもらい、続けられたら一年後に正社員として採用する」と説明していた。

　青年は真剣な表情で

「日本で映像の仕事をするのはずっと憧れでした。ぜひお願いします」と答えていた。

　漏れ聞こえるところ給与や待遇は良くはないだろう。それでも必死に日本語を覚え、夢をつかもうとする姿がなんとも健気で、胸があたたかくなった。どうか日本での挑戦が実りあるものになってほしいと願わずにはいられなかった。

　喫茶店を出て帰路を歩いていると、大きなスーツケースを両手で引きずりながら歩くアジア系の女性が前にいた。秋晴れの少し汗ばむ陽気の中、ゴロゴロと重そうな荷物を運ぶ姿。

（日本を旅行中なんだろうな）と思いながら追い抜いた直後、背後でガシャンという大きな音がした。振り返ると、高齢の男性が自転車でその女性に出会い頭にぶつかったらしい。

その男性は

「この中国人が！どこ見て歩いとるんだ」と一方的に怒鳴りつけた。

「日本に来るな！」と強く言い放つ姿に、私は思わず足を止めた。女性は下を向いたまま動けずにいた。周囲の人がたしなめていたが、胸が痛む光景だった。

　先日の高市総理の国会答弁に中国が過剰反応している様子が連日報道されている。また、外国人に対して規制を求める声も大きくなってきた。だが、政治の思惑や感情が、街角の小さな人間同士の関係にまで影を落としているとすれば、あまりにも悲しい。

閑話休題。

先の参議院選挙で焦点になった一つに「外国人問題」。労働者、オーバーツーリズム、移民・難民、外国人による事件など、答えのない課題が一気に噴き出している。

　右左どちらに振れても極論に陥りやすいテーマであり、白黒をつけることは難しい。　

　先述したように高市総理の台湾有事に関する答弁に対し中国は敏感に反応し、国内メディアも過熱している。中国は中国の言い分があるのだろうが、今の中国経済は不動産バブル崩壊、内需減速、格差拡大、資金流出と、ポジティブ材料がほとんどない。

　台湾有事への強硬姿勢もメリットは何もない。国内不満のガス抜きや日本を通じた米国牽制の可能性もあるのかもしれない。

　どの世界でも「隣近所」が仲良くするのは難しい。韓国とも中国とも穏やかで有益な関係を築きたいが、歴史・政治・安全保障が絡む以上、簡単にはいかない。それでも、政治的緊張や報道の過熱が、市民や旅行者、真面目に働く外国人にまで“疑いのフィルター”を向けるのは、やはり心が痛む。

今日もコンビニで東南アジア系の若い店員が丁寧な日本語で接客してくれた。懸命に働く姿を見ると、日本が過剰な警戒ではなく、共生を選ぶ国であってほしいと強く思う。政治は政治。人は人。日本人の民度が試されているように思う。

【追伸】

中国の国家意思とは、すなわち習近平氏個人の意思である。田中角栄、小沢一郎、二階俊博、公明党といった“コントロール可能な対日パイプ”が日本政権の中心から消えつつある中で、米国と近しい安倍元総理、その系譜を継ぐ高市総理を習近平が好むはずもない。

　今後、致命的な衝突こそ避けられるだろうが、日本への揺さぶりや嫌がらせは形を変えながら高市政権が退陣するまで続くはずだ。

　中国は台湾を武力制圧するほど浅はかではない。「戦わずして勝つ」を実践しているに過ぎない。だからこそ、過剰に反応せず、放っておけばよいと私は思う。