(21)個人的見解と経営理念 クレームのエネルギー(2025.9.1)
昨年来から父の体調が不安定になり入退院を繰り替えしている。既往があり、自宅で療養しているが、不規則に息苦しさが出るため、ときどき病院の緊急外来を受診していた。
数日前にも夕方に体調が悪化し、病院へ。そして数日後も同じような症状で救急外来を訪れたのだが、その時の出来事を母から聞いた。
緊急外来の若い当直医師の対応は、父を見て高圧的にこう言ったという。
「緊急は生きるか死ぬかの瀬戸際の人が来るところだ」
「専門外だから私はわからない」
「苦しいなら昼に来なさい」
強い口調でそう言われ、付き添った母と父は大きなショックを受けたという。
私もこの出来事を聞いたのは22時頃。コノヤローと思い電話をしようかと思ったが、それは思い留まった。
確かに父は病院では気丈に振る舞っていて、見た目は「今にも死ぬような」感じではなかったと思う。だからといって年寄りにその言い方はないだろう。
何かを伝えなくてはいけない。どうやって病院に声を届けるべきか。私は住宅事業を通じて数多く多くのクレームを受けてきた。今度は私がクレームを入れる番だ。そう思うと余計にどう伝えようかを迷ったが、翌日、病院へ電話を入れた。
こちらの意見は二点に絞った。
一つは「緊急外来は“死にかけの人”しか来てはいけないと当直から聞いたようだ。それは病院全体の総意、方針なのか?もしそうなら判断基準を示し、患者にも周知してほしい。」
もう一つは「高圧的な対応は病院として許容されているのか?」である。
私は最初からその対応をした当直のガキ医師には興味はなかった。興味があったのは「病院の方針」である。もし緊急外来は死ぬ間際の人が来るところ、勘違いしているであろう患者には高圧的に対応する、というのが総意、方針なら致し方ない。病院はそういうものだと両親に理解してもらうしかない。
私の意思と意見は伝えたいが、声高に言うのも違う気がした。相手も仕事である。
翌日、看護師の責任者の方が真摯に話を聞いてくださった。返ってきた答えはこうだった。
「お父様には苦しい時は夜でも日曜でも遠慮なく緊急外来に来てくださいと伝えています。今回の発言は病院の総意でも方針ではありません。大変申し訳ありませんでした」
問題は病院の総意ではなく、個別の対応にあったのだと理解した。私に謝罪は必要ない。両親がこの件で病院へ行くのを躊躇して手遅れにならないようケアをしてほしいと依頼をした。
今回の一件で、私には二つの気づきがあった。
一つ目は、クレームを入れる側のエネルギーである。これまで私は「クレームを受ける側」としての経験が多かった。だが実際に声を届ける立場になってみると、想像以上にエネルギーがいる。迷いもあるし、相手の反応に不安も感じる。
二つ目は、個人的見解の危うさと理念の存在である。
今回の医師の発言はあくまで個人の意見だったようだ。しかし患者や家族にとっては「病院全体の姿勢」として受け止められてしまう。企業でいえば、社員一人の言動が会社のイメージを左右するのと同じだ。
ここで登場するのが経営理念である。個人的見解と組織の理念に相違があればその溝を埋めるか、離脱するかの2つしか選択肢はない。理念、方針とはただの看板ではない。組織人の行動にまで落とし込めるかどうかが、本当の理念経営なのではないだろうか。
経営理念とは、普段は常に意識しているものではないかもしれない。しかし、判断に迷うとき、行動が揺れるときにこそ必要になる。理念は企業にとっての北極星であり、これがなければ組織はただの烏合の衆だ。
地域医療の現場はご苦労は理解しているつもりだ。しかし今回は「弊社の理念は社員の発する言葉、行動に浸透をしているだろうか」という問いかけでもあった。今一度、足元を見つめ、気持ちを引き締めなくてはと思った出来事だった

最高経営責任者 蜘手 健介
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