2016年、世界にとって政治的な大きな動きが2つあった。

1つは英国の国民投票において、EU離脱を国民が選択したことだ。EUは1993年のマーヒストリヒト条約発効によって誕生した。その条約には目的として国境のない地域の創設や通貨統合による経済的・社会的発展。外交・安全保障政策の共通化。司法や内務協力の発展や欧州市民権の導入などが明記されている。すなわちそれは近隣国家同士の理想の実現に向けたものであり、世界に類を見ない国家連合の実験でもあった。  

しかし英国国民は現実を選択した。理想主義が現実主義に敗北した瞬間であった。

2つ目は米国大統領にトランプ氏が選ばれたことだ。トランプ氏の公約には「米国だけの利益の追求」についての言葉がズラリと並ぶ。メキシコの国境に壁を作る、高い関税をかけて国内の雇用を創出する、安全保障下にある国から対価を要求する。またオバマ氏の肝入であった就任早々にTPPには永久に参加しない、オバマケアは廃止という大統領令を発効した。トランプ氏は超現実主義者である。側近はファミリーで揃え、相続税の廃止も掲げている。スローガンは“強いアメリカを取り戻す”。米国国民は8年前にオバマ氏が語った理想にNGを突きつけて、現実主義者を選んだ。

今、世界は現実主義の風が吹いている。日本はどうだろうか?

2016年の国内経済について良いという数字を見つけるのは難しい。不要不急である百貨店、自動車、住宅は低迷し、いよいよ2018年から世帯数も減少する。人口ボーナスという基礎的な経済効果が見込めないどころか、出生数は年間100万人を下回った。また1月に発表された海外投資家の日本市場における売買額では、リーマンショック時に匹敵する5.7兆円の売り越しであった。

しかし2016年の株価は底堅く推移をした。日経平均の株価指数では0.59と僅かであるがプラスであった。国内経済に良い要因など何も見つからない上に海外投資家も離れている。では何故株価だけが好調なのか。

 その1つとして考えられるのは、130兆円の公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)と日本の資本主義の頂点に君臨する黒田総裁が率いる日銀が上場投資信託(ETF)で合わせて8兆円近くと買い込んでいることだろう。日本市場に大きく投資をしているのは、紙幣印刷の輪転機を持つ日銀と私たちの年金だと思うと、暗澹たる気持ちになってしまう。悪いことを悪いと認めないことは必ずそのツケを誰かが払うことになるのだが、おそらくその多くは私たち国民なのである。

 世界も日本も今は現実主義の風が強く吹いている。そして私たち経営者も現実の世界で生きている。理想は持っているが、目下の課題は現実であり、その現実にいつも苦しい思いをしているのも事実である。

 先日、Jackグループ新年賀詞交歓会での私の講演での感想でこんなメッセージをいただいた。

「経営者がよく”君はどうしたいんだ?”と聞きますが、社員は”社長はどこに連れていってくれるんですか?”と思っているのが社員の本音です」というお言葉が印象的でした。自分自身よく社長から「おまえはどうしたいんだ?」とよく聞かれ、その度に困った経験がありました。経営者こそが理想を語るのが仕事と仰っておりましたが経営者と社員の役割の違いをとても分かりやすく表現して頂きとても勉強になりました。」

 現実主義の時代では現実主義と理想主義の議論はいつも現実主義者が勝つ。だからといって現実だけを見ていて私たちに未来はあるだろうか。自分さえよければいいという現実主義思考に明るい未来などないと私は思う。

 私はこんな時代だからこそ、企業経営者には理想を掲げほしい。現実主義の風が強く吹く今だからこそ、多少の犠牲を払っても理想を夢みてほしい。ただの現実逃避である“夢想家”ではいけない。

理想という経営者が成し遂げたい夢とロマンがあるからこそ、社員は鼓舞されて“この人なら”と共に厳しい歩みを歩んでくれるのだ。上手くいかないことが多い現実だからこそ、私たちは高い志と理想を追い求めたい。それは企業経営者に課せられた使命の1つなのではないかと思う。

雲の上で見える風景は地上では見ることはできないのである。

KUMODE


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